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とある作曲家の日記


by utremi
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ut re mi

私のExciteブログIDであるutremiについて質問があったのでお答えしておきます。ただし、わかりやすくするために簡単に説明しますので、学術的にはかならずしも厳密ではありません。ご了承ください。

ut re mi「ウト・レ・ミ」とはすなわち「ド・レ・ミ」ということです。

もともと音階には名前がなかったのですが、これでは歌唱の際に不便です。そこで、11世紀初頭にイタリア人のGuido d'Arezzo「アレッツォのグイード」という人が「聖ヨハネ讃歌」の歌詞から行頭のシラブルを抽出し、ut re mi fa sol la というシラブルを音階の各音に当てはめました。

こうして音階は「ut re mi fa sol la」と歌われるようになったのです。ところが、utは発音しにくいという理由でいつのまにかdoに取って代わられたのです。

ちなみに、当時は音階は6つの音しかなく、これをヘクサコードと呼びました。ヘクサコードは当初レから始まるものと、ミから始まるものとファから始まるものとソから始まるものの4つしかなく、これに正格と変格をともなって8種類のモードが存在したのです。のちにドから始まるもの(長音階の起源)とラから始まるもの(短音階の起源)が加わりました。

さて、11世紀くらいまでの教会音楽は、1オクターブ以内の音域で声部もひとつだけだったため、音律も純正律で厳かに歌われていたのですが、やがて音域が1オクターブを超え、さらに複数の声部で歌うようになると様々な問題が生じました。

まず、純正律ではオクターブがズレるため、様々な音律が考案されました(これを極限まで押し進めたのが現在普及している平均律です)。また導音の問題も出てきました。これは現代では「シ」の音ですが、当時は「ラ」までしかなかったので、「シ」は「ミ」と発音していました。要するに「ウト(ド)・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・ミ・ファ」と歌っていたのです(ちなみに、17世紀後半になると、合理的なフランス人たちが音階を7つの音に拡大し、7番目のシラブルとして「シ」を導入しました)。つまり、「ミ」と歌う以上、その音は主音に対して半音下になるわけで、ファから始まるモードとドから始まるモードを除けば、該当音は半音上げることを意味しました。ところがこの半音上げるという記号は当初は存在せず、暗黙の了解として半音上げられたのです。が、楽譜として証拠が残っていない以上、学者によっては、この半音の変化は議論の余地が生じることになりました。いつごろから半音上がり始めたのかなど、この手の論争には決着が付きそうにありません。

さらに、複数の声部の間で「ミ・コントラ・ファ」の問題、すなわち「シとファの間の3全音」の問題(3全音とは増4度のことで、この音程は当時「音楽の悪魔」と呼ばれて忌み嫌われていました)も起きました。これを解決するため、当時の人々は即興的にシを半音下げたり、ファを半音上げたりして歌いました。これは楽譜には記されることがなかったので、「ムジカ・フィクタ」と呼ばれました。フィクタとはフィクションという意味です。先にあげた導音の問題もムジカ・フィクタに入ります。

というわけで、ちょっとややこしくなりましたが、要するに「ウト・レ・ミ」とは「ド・レ・ミ」という意味で、これから楽しく音楽をやりましょうという私のほがらかな気持ちが表れたものだとお考え下さい。
by utremi | 2009-02-19 16:17 | 音楽